弟、時々恋、のち狼
        ※


蜂の巣をつついたような騒ぎ。
その表現が正しいかもしれない。

アタシのまわりが遠巻きに、だ。


「美風さん、ちょっとイイ?」


いつもなら待ち遠しい音楽の授業が、今日は恐ろしい。
しかも、5時間目。
さすがにロウの耳にも入っているだろう。


「はい……」


終業のチャイムは、案の定、最悪の展開を呼んだ。

いかにも「部活の用事」を装ったロウの無表情が怖い。


「行くぞ」


そろそろとロウに近寄るアタシを、威圧的な声が呼び止めた。


「次の授業に遅れる」


肩をがっしり掴まれた。

ロウの前でやめてよ!!


思うけれど、言葉が出て来ない。
今日一日で、余計な発言は火に油だと痛感した。


「江藤くん、だったね」


すうっと冷えたロウの声。
鋭い眼光に、アタシが射竦められてしまいそうだ。


「移動時間は5分しかありません。瀧川さんを困らせないでください」


刃のような眼差しで、ツカサは慇懃無礼に言い捨てる。


「行こう」


有無を言わさず、またしてもアタシの手をひっぱった。


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