弟、時々恋、のち狼
おばあちゃんも昔は大変だったらしいって聞いたけど……薬のない日常なんて、想像できない。
………………そういえば。
薬ができる前、どころじゃあない大昔。
ミイは、具合の悪い時、どうしてたんだろう。
特に覚えておくほどのことでもなかったのか、記憶にない。
そもそも、人外の身は生理どころか不調とも無縁だったように思えるし。
……変なの。
アタシのが知っているのはミイのこと。ミイの役割は記憶することじゃない。だから、覚えてなくても当たり前のはず。
なのに、思い出せないことが、妙におもしろくなかった。
なんだか今日はこんな半端なことばっかりだ。
「失礼します」
ガラリと保健室のドアを開けた。
アタシの仕事はとりあえずここまで。
「……あれ?」
と、思ったのに、室内はがらんとして人の気配がない。
「職員室かな」
……仕方ないな。
辛そうな大木さんをとりあえず手近なイスに座らせて、保健の先生を呼びに行くことにする。
出張とかじゃないといいけど。
階段をパタパタと登り、職員室のドアをノックする。
「失礼します。保健の先生いらっしゃいますか」
遠慮がちに中を覗くと、まばらな人影。
ロウと、目があった。
「どうしたの?」
空き時間だったのだろうか。
いつも音楽準備室にこもっているロウが職員室にいるなんて珍しい。