弟、時々恋、のち狼
「あ……あの、大木さんが腹痛で……保健室に行ったんですけど、先生がいなかったので……」
口がうまくまわらない。
でも、少し離れた席からゆっくりと歩いてくるロウに、できるだけ自然に事情を話す。
顔見知りの先生と生徒。
そんな、感じ。
まわりに、変に思われないよう。慎重に。
それ、なのに……。
おかしい。
顔が、見られない。
内気な印象に見られれば変じゃないのかもしれない。
けれど、まわりは気にしなくたって、これじゃあ……ロウには、怪しまれてしまう。
どうしよう。
アタシが後ろめたく感じる必要なんかナイ。そう思うのに。
「保健の山崎先生?
……あれ?さっきまでいらしたんだけどな」
キョロキョロと首をまわすロウの姿は、ごく普通に生徒に対応する先生。
ついその、当たり前の素っ気なさに寂しさを感じてしまうほどだ。
「すれ違っちゃったのかもしれないね」
近づいてくる黒いスニーカー。
「大丈夫。今頃保健室についてるはずだから」
ポンと肩に手を感じ、思わず、びくりと体がゆれた。
やば……っ。
「ところで、ちょうど良かった」
さりげなく、職員室を出るよう促される。
後ろ手でガラリとドアを閉めると、耳元で
「話したいと思ってたんだ」
ひそめられた声は、硬い。