弟、時々恋、のち狼
「…………けど、治したのはツカサくんでしょ」
上向き始めた心にまだ巣くう不安は、一つ。
いくらアタシの力だと言われたって、どう見ても、今の奇跡はツカサの仕業としか思えない。
「まだ思い出さないの?」
呆れ果てているような、おもしろがっているような返事。
「何のこと?」
彼は一体、何を知っているのだろう。
「まぁいいよ。オレはあの頃、社の司だった、と以前に言ったんだ。だとしたら、いと賢きミイ様には、オレにそんな力がないのはわかるでしょう?」
ツカサは意地悪だ。
理屈は合ってる。
でも肝心な何かをはぐらかされたような気がする。
「…………うん」
釈然としない思いで、とりあえず、頷いた。
「気持ちのコントロールが未熟なうちは、もっとたくさん物を壊す。
いずれ、人間も、だ」
言うと、ニヤリ、皮肉な笑みでアタシの目を覗き込む。
「たくさん、死ぬぞ」
「…………」
そんな……。
アタシが、誰かを傷つける……ましてや……殺してしまう……?