弟、時々恋、のち狼

ベタベタ、馴れ馴れしいヤツだけど。

そんな涼やかな顔で、この上なく甘い言葉をかけられて。冷静でいられる方がおかしいと思う。


「手、洗ってくる!」


耳まですっかり熱を持ってしまったアタシは、逃げるようにトイレに立った。
いっそ、顔を洗って冷やしてしまおうか。

ダメだよ……。

初対面でツカサに惹かれたのは事実。
けど、アタシは、ロウが好きなの。

ツカサにドキドキしたりして……浮気性にもほどがある。

流しの鏡に写ったアタシの顔。

頬を染めて。
まるで、恋する乙女だ。

そんなこと、あっちゃいけないのに。


ツカサは、確かにアタシのことをよくわかってくれる。
強引だけどアタシが本気で嫌がることは一切しないし、時折、ロウにも負けないほど、優しい。

あの、冷たい感じさえする端正な顔が柔らかく微笑むと、いつだって、アタシはドキドキして、なんとも言い表し難い、暖かな気持ちになった。


もしかしたら、ロウを好きな気持ちは、ミ胃のもので、アタシとは別なのかもしれない。なんて、都合のいい考えすら。
じゃあ、今のミフウの気持ちは……?


ブ……ブブブブー……


バックの中、ケイタイがふるえている。
反射的に、慌てて取り出した。


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