弟、時々恋、のち狼
「出よう」
伝票をレジにもって行くツカサに、アタシは素早く背を向けた。
そろりそろりと店を出ると、脱兎のごとく走り出す。
もう、何も考えたくなかった。
一目散に。
ロウのところへ。
前世の使命を捨てた今、たぶん、アタシの使命はロウを好きでいること。
人間として、ロウとともに愛を知ること。
アタシが走り過ぎる片端から、植木鉢が、看板が、歪み、壊れて行く。
こんな不安定な気持ちじゃ、何が起こっても不思議じゃない。
だけど……。ツカサの所には戻れない。
助けて。
助けて、ロウ。
いっそ、アタシをロウの一部にしてくれればいいのに。
ロウしかいない世界に閉じ込めてくれればいいのに。
そうすれば、不安も心配もなくなるのに……。
人間て、不安定だよ。アタシ、弱虫だ。
優しいロウ。
いつだって、アタシの気持ちを優先して、待っていてくれる。
アタシは、そんなロウが大好きなのに。
息の苦しさに走るのをやめて、歩きながら携帯を開く。
リダイヤルを押すと、すぐに、呼び出し音が鳴り始めた。
「はい」
静かに流れてくるロウの声。
それだけでほっとして、涙があふれて止まらない。