弟、時々恋、のち狼

逃げ……。

話す方が楽だ。抱え込む方が苦しい。


なのに、ロゥは、苦しい道こそ逃げ道だと言う。
アタシの苦悩を知らないから言える言葉だ。

さすがに、少しムッとした。


「とは言っても、話すこと自体は難しくない。黙っていることこそ難しい……その瞬間はね」


反論しようと開きかけた口は、しかし、抑揚のない口調にたしなめられる。


「でも話せば、後々面倒くさがられて嫌われるかもしれないと思ってる。だから、自分のために黙ってる。
黙ってるのは辛い。けど、嫌われるより、一人になるよりはマシだから、隠すことを選ぶ」


そういえば、説教は本職。
静かな威厳に、アタシはいつの間にか聴き入っていた。

胸に、妙な、納得のような想いが広がっていく。
自分では自分の気持ちはうまく言いあらわせない。図星をさされたというより、はっきり表現できない気持ちを代弁してもらっている感覚に近かった。


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