弟、時々恋、のち狼
え……?
よろめきそうになるのを踏ん張り、肩で乱れた息を整える。
ただの立ち眩み、にしては、妙だった。
でも、それを気にしたらなんだか取り返しのつかないことになるような気がして……アタシはごくりと唾を飲み込むと、流しの水で勢いよく手を洗った。
「ミフウ、鍋に油入れて」
声をかけられ慌てて手を拭うと、揚げ油の準備をする。
キレイに洗った手が、それでも卵のヌメリを帯びているようで、落ち着かない気分になった。
入れ終えた油のボトルの蓋を閉めると、またしてもヌルリとした感触。
生理的嫌悪感、とでも言うのだろうか。
わけのわからない不快感が指先から這い上がってきて、アタシを苦しめる。
生地の準備を順調に終えた友達から離れ、一人洗い物をしながら、ついでに、洗剤で腕まで洗う。
ゴシゴシと擦り、きれいになっているはずなのに、まったくそんな気がしてこない。
さわやかな洗剤の臭いがふいに生臭く感じられ、アタシは心底ゾッとした。
や……っ!!
生臭さはどんどん濃くなり、次第にはっきりとしてくる。
「ひっ」
流れ出る水が真っ赤に染まった。
むせかえるような、血の、臭い。