弟、時々恋、のち狼

目の前に、割れ、砕けた建物が、大地が、現れた。


久々の幻覚だ。
それも、かなり大規模な。


頭の隅は冷静にそう思うのに、心が、一気に恐慌をきたした。


遠く聞こえてくるのは、悲鳴と、泣き声。


「やっ……!!」


両手が痛い。

血にまみれた手から、生きとし生けるものの怨みがアタシの中に流れ込んでくるようだ。


「アタシじゃない……っ」


この星の歴史を洗い流し、やり直すため。

そう。

かつて、その使命のために幾度も、絶大な力を振るった。

地を割り、種を滅ぼし。
荒ぶる神。破壊神。死神。

使命だから。
そのためのみに、存在したから。


「アタシのせいじゃない!!」


突如現れた太古の幻が、アタシを食い尽くす。

かぶりをふっても追い払えず、目を閉じても鮮明になるばかり。


--なぜ


どこからともなく、聞こえる、苦しみ。


--何が、違う


それは幾重もの、死者たちの声。
前世、アタシが滅ぼしたもの。
世に馴染むアタシを怨む……。


--今の世こそ、赦されぬ

--なぜに我らが……

--半端な使命よ

--うぬが価値、いずこへ消えたか


亡霊が囁く。


--ミィ様……


< 209 / 259 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop