弟、時々恋、のち狼
目の前に、割れ、砕けた建物が、大地が、現れた。
久々の幻覚だ。
それも、かなり大規模な。
頭の隅は冷静にそう思うのに、心が、一気に恐慌をきたした。
遠く聞こえてくるのは、悲鳴と、泣き声。
「やっ……!!」
両手が痛い。
血にまみれた手から、生きとし生けるものの怨みがアタシの中に流れ込んでくるようだ。
「アタシじゃない……っ」
この星の歴史を洗い流し、やり直すため。
そう。
かつて、その使命のために幾度も、絶大な力を振るった。
地を割り、種を滅ぼし。
荒ぶる神。破壊神。死神。
使命だから。
そのためのみに、存在したから。
「アタシのせいじゃない!!」
突如現れた太古の幻が、アタシを食い尽くす。
かぶりをふっても追い払えず、目を閉じても鮮明になるばかり。
--なぜ
どこからともなく、聞こえる、苦しみ。
--何が、違う
それは幾重もの、死者たちの声。
前世、アタシが滅ぼしたもの。
世に馴染むアタシを怨む……。
--今の世こそ、赦されぬ
--なぜに我らが……
--半端な使命よ
--うぬが価値、いずこへ消えたか
亡霊が囁く。
--ミィ様……