弟、時々恋、のち狼
凪
何がどうなったのか、わからなかった。
名を呼ばれた気がした。
この上なく優しい声で。
気付いたら、アタシは暖かな腕の中で。
確かめなくても、その主はわかっていた。
ツカサ。
すぅっと心が落ち着いて行く。
耳元で何か囁きを聞いた。
と、思うと、心地良いぬくもりが体に広がり、心休まる香りが鼻先をくすぐった。
アタシたちを中心にふんわりとした柔らかいものが、広がる。
悲鳴と嘆きに満ちていた場所が、安らぎに満ちた場所に変わって行くのがわかった。
過去も、現在も。
ふいに、現実が目にうつる。
まるで嵐か竜巻でも吹き抜けたあとのような、荒れ果てた家庭科室。
床には、倒れ、呻く友達。
それが、花が咲き広がるかのように、元に戻っていく。
まるで何もなかったかのように。
時間が巻き戻ったかのように。