弟、時々恋、のち狼
「もっと早くここに来るべきだった。誰も傷つけることない、心安らぐ、二人きりのこの場所に」
こくん。
飲み込むと同時に、ツカサの言う通りだという思いが湧いてきた。
ここは本当に心の底から寛げる場所で。
ツカサはきっと、その安寧に欠かせない人で。
そして、何よりも。
ここなら誰も傷つけない。
傷つく誰かを見て、自分が傷つくことだって、ない。
そう。
こうして。
二人で……。
アタシは立ち上がると、広いバルコニーを抜けて外に出た。
深く深く、息を吸い込む。
太陽こそないものの、不思議と明るい庭には緑が茂り、色とりどりの花が咲いている。
空気は、甘く豊潤な精気に溢れていた。
遠く目をやれば、そびえ立つ険しい山々。
澄んで輝く湖。
おかえりなさい。
初めての場所のはずなのに、見渡せるすべてが、そう言っている気がする。
「ここは、破壊し、創造する力が産んだ、別世界。歴史にはない、存在しない場所」
いつの間にか隣に並んだツカサが、愛おしげに景色を眺め、言う。
「…………あなたは、誰?」
その慈しみあふれる横顔に、違和感を覚えた。