弟、時々恋、のち狼
「男か女かなんて無意味だ。知ってるだろう?どんな生き物の姿を借りているかさえ、意味はない」
ほら。
と、ツカサはアタシの目を覗き込む。
見えるはずだ、と。
目の奥に潜む魂が。
引き合うだろう、と。
--ふいに、周囲の音が消えた。
すぅっ……と、額に意識が集まり、まるでそのまま体から抜け出すかのようにゆらりと揺れる。
キーンと頭の中で何かが擦れ合い……
と、唐突に。
世界が暗転した。
真っ暗な中、何かが次々とすごいスピードで近づいてくるのがわかる。
「大丈夫。受け止めればいい」
体の感覚すらあやしいほどの闇を、ツカサの声が柔らかく貫く。
受け止める?
何を?
思った瞬間。
どんっ!と衝撃が突き抜けた。
「ぁ……ぁあああっ」
それは、アタシの知らない記憶。
スクリーンに焼き付いた映画のワンシーンのように、見たことのない光景が次々と映し出される。
ともすれば荒れ狂う記憶の奔流に流されないようアタシは必死で体に力を込めた。