弟、時々恋、のち狼

駆け降りようとして、やめた。

ツカサの笑い声。あんな無邪気な笑い声。初めて、かもしれない。

いつも大人ぶってアタシを翻弄して、そのくせ優しいツカサ。無邪気とは程遠い顔しか、アタシには見せない。

少し、悔しい。

だけど、それ以上にショックだった。

アタシが、きっと、あんなツカサをつくっているんだ。

ホントのツカサは、あっちなのかもしれない。

アタシの頑なさや、思い切りの悪さが、ツカサに無理をさせているとしたら……。


胸が、苦しい。


どのくらいそうしてツカサを見ていただろう。

ふいにツカサがこちらに気づいた。
気づいて、手招きする。

降りておいで。

その動作に違和感を覚え、いつだってツカサがアタシのところに来てくれていたことを改めて知った。

何様だ。
急に自分が恥ずかしくなる。

待たせぬよう、パタパタ駆けて行く。
足元の冷たい大理石の感覚が、芝のはっきりとした感覚に変わる。





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