弟、時々恋、のち狼
びっくりして体を竦ませるのと、ツカサの舌打ちが同時だった。
庇うようにアタシを抱えたまま、ツカサが臨戦態勢に入るのがわかる。
「そういうことか」
低く苛立った声に、背筋が凍えるようだった。
何が起こるのか、とにかく、良くないことなのだとだけ、思った。
「離れるな。結局、避けては通れないってことか」
自嘲するような呟きは、もはやアタシの耳に届かなかった。
リスが……、目の前で、可愛らしいリスが、風船のように膨れ上がっていく。その異様さに、アタシはただただ、震えていた。
「ミイ…………」
リスが甲高い声で呼ぶ。
ぞくりとするような、気味の悪い光景だった。
「探しましたわ……」
リスがぱあんっ!と爆ぜた。
「きゃあっ」
「中へ」
抱きかかえられるように、走り出す。
足がもつれ、少しの距離がとてつもなく遠く感じた。
何か得体の知れない恐怖に捕らわれ、アタシは薄れる意識の中、ひたすら走る。