弟、時々恋、のち狼
足下が再びひんやりとした大理石を踏む。
アタシたちは転げるように、館に駆け込んだ。
荒い息の下、テラスに向かうツカサのあとを追う。
本当は最奥に籠もってやり過ごしたかった。でも、ツカサと離れることができない。
「大丈夫」
振り向いたツカサは、いつの間にか惚れ惚れするほどの笑みを浮かべていた。
差し出された手を掴み、寄り添うように並んだ。
「ミフウはオレを選んだ」
そんな場合ではないのに、ツカサの浮かべる屈託のない笑みにドキリと体温があがる。
「館の守りは崩れない。ここには入って来られない」
何が?と訊く前に、視界の中に異物が現れた。
見る見る盛り上がる白い小山。
絶句して見つめるうちに、白い陰は伸び縮みを繰り返し、次第に白く巨大な獣となった。
「…………ラッラ…?」
大きく、白い、子猫。
「さがしましたの」
先ほども聞いた甲高い響き。
まさか。
なんで……?
「ロゥはどうやらオレたちと違う。力も記憶も、あの男と子猫に配分された」
警戒するような物言いは、しかしまだ余裕を含んでいる。
ツカサの落ち着き払った様子に、アタシの気持ちも少し和らいだ。