弟、時々恋、のち狼
雷雨
なんで?
アタシの頭の中で、その言葉だけが繰り返される。
何もかもが、わからなかった。
「大丈夫。入ってはこられない」
肩を抱くツカサの温もりだけが、現実だと感じられる。
ついさっきまでの穏やかさが夢のようだ。
「あの森までが限度だ」
時折耳に息のあたるくすぐったさに、ツカサはちゃんとここにいるのだと教えてくれる。
アタシは、ガクガクと震えるように頷いた。
「さっきの、とこ?」
「そう。オレが迂闊だった。アレはミフウを探しに来ていた。だから生きてた」
あの小鳥やリスのことだとなんとなく理解する。
「白状すれば、あの森は飾り物だ。実態はないに等しい。この館が現実で、それを取り巻く虚構の風景」
それはつまり、あちら側はミィの力の支配が弱いということ。
「もう少し落ち着いたら、徐々に作り込んで行く予定だった」
どのみち、ついさっきまで、アタシは館の外に興味を抱かなかったから。ツカサは、館をこそ、充実させていった。
「ここはオレたちの領域。どんなに死力を尽くしても、ああして声を飛ばすだけで精一杯だ」
所詮、負け惜しみだ。
あくまでもツカサは高圧的な態度を崩さない。
「だい、じょ……ぶ……」
ぼんやりと口にして首を小さく傾げた。
アタシは、ロウに来て欲しくないと、本当に思ってるんだろうか。
正直、よくわからない。
「精一杯?誰に言ってんの?」
遠目にも、ロウがキレイな顔を妖艶に歪めたのがわかった。
アタシの王子様。……でも、その微笑みは魔王のように妖しく肌を粟立たせた。