弟、時々恋、のち狼

「ふっ」


鼻で笑う音がしたと思ったら、視界を占める大きな白がふいに体を丸めた。
館の敷地まではあと少し。
進むのを止め、まるで眠りにつくかのようなその動きに、呆気にとられる。

と、同時に、アタシはロウを見失った。

まさか、振り落とされたなんてことはないと思うけど……。


「っつ!」

「!!」


突然。
たぶん同時に。
アタシとツカサは耳を走り抜ける鋭い痛みによろめいた。

ズキズキ痛む耳の奥に、目の前がチカチカする。
素早く態勢を立て直してアタシを支えるツカサも、苦痛に顔を歪めている。


「まさ、か……?」


一言、茫然としたツカサの唇からこぼれ落ちた。


「見くびってもらっちゃ困るよ」


何一つ状況が飲み込めないままのアタシの頭を、大きな手がふわりと撫でた。

肩にまわされたツカサのものとは違う、もっとゴツゴツと大きな、大人の男の手。


驚いて顔をうるむ瞳を向けると、すぐ真後ろにロウがいた。

いつもの、優しい顔がアタシを見つめる。
数瞬前までは恐ろしく感じていたのに、そこにいるのは、間違いなく、アタシの大好きなロウだ。

急に、切なさが胸を締め付けた。
そして、罪悪感も。
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