弟、時々恋、のち狼
「……ロ、ウ?」
どうかしてしまったのかと不安になって呼びかける。
ツカサの背中から少しだけ顔を覗かせて見るロウは、笑っているのに全然楽しそうじゃない。
「ミイ、こっちにおいで」
笑いをおさめたロウが、アタシを見てふんわりと誘う。甘い甘い、魅惑的なその瞳。
でも、さっきから感じているささいな違和感のせいで、アタシは動けなかった。
「どうしたの?オレはミイがいないと生きていけない。知ってるだろ?」
……アタシだって、ロウと一緒にいたいと思ってた。
でも、今となっては、それが良いことなのかどうかわからなくなってしまった。
混乱した頭で、アタシはただ、湧き上がってくる涙をこらえた。
「嫌がってるだろ。わからない?」
立ち竦むアタシを慈しむように振り返り、ツカサはまたロウに立ち向かう。
「端役に用はないな。そもそも、おまえ、何?」
目障りだ。ロウは傲然と言い放つ。
そんなロウにツカサは驚いたようだった。
「……気付いてないのか?」
独り言のような問いかけに答えはない。
けれど、ツカサは確信を得たようにアタシを見、それからゆっくり後ずさった。
押されるように、アタシも一緒に後退り、ついに、長椅子にぶつかると同時に倒れ込んだ。
『まずいかもしれない……』
耳を通さず、直接脳裏に響いたツカサの声に目を見開く。
『何が?』
問いかけるように考えると、どんな仕組みか、ツカサに伝わったらしい。
『ロウのリミッターが壊れてる』
……リミッター?
『ロウはオレが誰かわからない。つまり、自分とラッラの関係を知らない』
アタシとツカサ、二人でミィだと言うこと。それから、ロウとラッラ、二人でロゥだと言うこと。
ツカサから知らされたその事実を、ロウも、たぶんラッラも、知らない。