弟、時々恋、のち狼
アタシ、ロウの方に行ったほうがいいのかな?
思うのに、やっぱり体が動かない。
「……ラッラは……?」
代わりに口をついて出たのは、気になっていたことの一つ。
あれ以来、身動ぎすらしない。
「ん?ミイは優しいなぁ」
アタシの掠れた質問に、ロウは相好を崩した。
そして
「オレよりもラッラが気になるの?……妬けるなぁ」
悪夢のように、鬼の形相へと変わっていく。
「ちが……っ……!」
否定の言葉は届かない。
ロウの長い指が伸ばされ、アタシに掴みかかる……と思った刹那。
バチィッ!!
大きな音が空間を引き裂いて火花を散らした。
「簡単に触るなよ」
「……ツカ、サ」
驚きの連続で、アタシは腰が抜けたようにへたりこんでしまった。
「今度は遅れは取らない」
弾かれ血の流れた手をじっと見つめるロウの目には何の感情の色もない。
無造作にぶんっと手を振り、
「どこが?」
跡形もなく傷の消えた手を、わざとらしくかざした。
「でもおもしろくなってきたよ。愛や恋にはライバルがつきものだからね。そいつをねじ伏せて手に入れるのが醍醐味ってヤツだ。それでこそ、わざわざ生まれ変わった意味がある」
「ずいぶんと歪んだもんだ」
ふふふ……と不敵に笑うロウを、ツカサはため息をつきながら苦々しげに眺める。
アタシはオロオロとすることさえ忘れて固まっていた。
……気の、せい?
……でも…………。
ドォンッ!
突如轟音が耳をつんざいた。