弟、時々恋、のち狼

上靴をはき終えた彼が、近づいてくる。

もう、視線はアタシにはない。けれど、アタシは、視線をはずせなかった。


よく、少女マンガでこんなシーンあるよね……。


ぼんやり、思った。

ちょっとドジだったりしても、とにかく顔のかわいい主人公が、学園の憧れ的存在に一目惚れする、シーン。

きっと、アタシも、あんな感じのポーッとした表情で突っ立っているんだろう。
……まぁ、アタシはドジじゃないかわりに、特に目が大きいわけでも、造作が整ってるわけでもないけど。


「のちほど改めて」


…………え?


すれ違いざま、艶のあるささやきが聞こえた。

< 25 / 259 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop