弟、時々恋、のち狼
上靴をはき終えた彼が、近づいてくる。
もう、視線はアタシにはない。けれど、アタシは、視線をはずせなかった。
よく、少女マンガでこんなシーンあるよね……。
ぼんやり、思った。
ちょっとドジだったりしても、とにかく顔のかわいい主人公が、学園の憧れ的存在に一目惚れする、シーン。
きっと、アタシも、あんな感じのポーッとした表情で突っ立っているんだろう。
……まぁ、アタシはドジじゃないかわりに、特に目が大きいわけでも、造作が整ってるわけでもないけど。
「のちほど改めて」
…………え?
すれ違いざま、艶のあるささやきが聞こえた。