弟、時々恋、のち狼

この学校に入って良かったなぁってしみじみ思う。


「わっ」


「何やってんだ」


交差点のど真ん中で、ほどけた靴ひもを踏んでガクンと転ぶ。


「信号変わるぞ」


自然に差し出されたツカサの手を掴んで立ち上がり、残り半分程の横断歩道を駆け抜けた。

……………………あれ?

ふいに湧き上がった違和感。

アタシ、この手を知ってる。
アタシを守る、ツカサを覚えてる………?

こんな、ありふれた場面じゃなくて……。

『ソンナコトナイ』
いや、気のせいなんかじゃない。

『カンガエルナ』
ううん、思い出したい。



「ツカサ……?」

呼べば振り返る愛想のない、キレイな顔。

「ツカ、サ……」

怪訝そうなその表情に、見たことのないはずの優しい笑顔が重なった。

< 257 / 259 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop