弟、時々恋、のち狼
まだ低くなりきらない、澄んだ声。
アタシに、言ったのかな……。
きっと、彼が詩織の言う転入生なのだ。
昨日の入学式には、いなかった。
あれだけの存在感、いれば気づかないわけがない。
教室で改めて紹介される……ってことだよね……。
あの言葉は、アタシ個人に意味をこめたわけじゃない。新しいクラスメイトへの、そつのないあいさつだ。
そうわかってはいても、声をかけてくれたことが嬉しい。
笑われて……変なヤツだと無視されると思ったのに。
「お待たせっ。
なんか靴の裏にガムついててさ、おとしてくるのに時間かかっちゃった」
後ろ姿が見えなくなってもまだ階段を見ているアタシの肩を、詩織がまた、ポンと叩いた。