弟、時々恋、のち狼
彼は、何を考えているのか、かすかに空を仰いで、ただ、花陰に立っていた。
時折、風に吹かれてどこからかひらひらと花びらが舞ってくる。
まるで気にする気配もないままに佇んでいる様子は、あたかも、印象的な一枚の絵のようだ。
アタシは、見通しの良いこの場所を心底恨めしく思った。
急激に加熱して早鐘を打つ気持ちを抑えることすら上手くできないのに、声をかけるなんてできるわけがない。
ならば、せめてひっそりと見ていたいのに……。
ここでは、あからさますぎて、かえって辛い。
どうしよ……。
早くこの場を離れなくては。
早くどこかに隠れなくては。
ツカサくんの目に、無様なアタシが映らないように。
そろ……っ
一歩、あとずさる。
思う以上に緊張した足は、なかなかスムーズに動かない。
そろ……り
石ころを踏んずけて、体がよろけた。
焦って地面を確かめ、また、下がる。