弟、時々恋、のち狼
春の柔らかな風が一陣、またどこからか桜の花びらを運んできた。
アタシが何も言えないでいるのを見ると、ツカサは立ち上がり、フッと微笑んだ。
朝に見せた、あの柔らかな微笑み。
そして、スッときびすを返す。
「焦りは、無用」
風に乗せて静かにささやく。
と、そのまま、一度も振り返ることなく桜の脇を抜け、歩き去って行った。
…………何なの?
扉……って……?
わからないことだらけだ。
ホー、ホケキョ
いつの間にか、さらに芽をほころばせた日陰の桜の枝で、また、うぐいすが一声。
アタシはどこか遠くにその声を聞いた。