弟、時々恋、のち狼
……わけ……わかんない。
なんか、変。
逃げた方がイイのかも。
そう思うのに、耳元での切なげな甘い囁きに、背筋がぞくりと粟立つ。
力が、入らない。
突然こんなコトをするなんて、きっと危ないヒトに違いない。
早、く……に、げなきゃ……。
まさかアタシが変質者に遭うなんて……思ってもみなかった。
イイ香り……。
彼のつけている香水の匂いなのだろうか。涼しげなやわらかい香りが心地いい。
「愛してる」
抱きしめられたまま繰り返される囁きに、抵抗する気持ちがあせていく。
うっとり、と……。
なんか……幸せ、かも?
落ち着く、というか、なつかしい、というか。
心がとろけていくような感覚。
「オレと、行こ?」
意味もわからず、うなずきそうになる。
彼が、誰かも知らないのに。
「……や……っ」
このままじゃ、ダメ。
わずかに残った理性をフル稼働して、何とか体を引き離そうと試みる。
力いっぱい頑張っているつもりなのに、もぞもぞと体を揺する程度にしか動かない。