弟、時々恋、のち狼

波だけじゃない。
時として火事であり、矢の雨であり、怪物の牙であり……。


時も場所も選ばないそれを、アタシは目をかたくつむって、なんとかやりすごしていた。


ーーっ!!


耳が、ゴボゴボと不快な音を感じる。
目をつぶっていても引き込まれそうな、強い衝撃。


溺れる!!


荒い波。
深い水。


息が……っ!


それでも、幻覚だと知っているから、アタシは苦しい息を一生懸命に整える。

大丈夫。
死ぬことはない。

ない……はず。


胸がつまる。

心臓が爆発しそうにガンガンと頭の中で鳴り響いた。

意識が遠く……目の前が白くなって……。


ふぅ。


ふいに、いつものように、自分の呼吸を感じた。

幻覚の発作が終わった、合図。
唐突だけど、慣れた感覚。

< 78 / 259 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop