弟、時々恋、のち狼
波だけじゃない。
時として火事であり、矢の雨であり、怪物の牙であり……。
時も場所も選ばないそれを、アタシは目をかたくつむって、なんとかやりすごしていた。
ーーっ!!
耳が、ゴボゴボと不快な音を感じる。
目をつぶっていても引き込まれそうな、強い衝撃。
溺れる!!
荒い波。
深い水。
息が……っ!
それでも、幻覚だと知っているから、アタシは苦しい息を一生懸命に整える。
大丈夫。
死ぬことはない。
ない……はず。
胸がつまる。
心臓が爆発しそうにガンガンと頭の中で鳴り響いた。
意識が遠く……目の前が白くなって……。
ふぅ。
ふいに、いつものように、自分の呼吸を感じた。
幻覚の発作が終わった、合図。
唐突だけど、慣れた感覚。