弟、時々恋、のち狼

……どこかで会ったっけ?


そのあまりにも切なげな姿に、なんとか思い出してあげたいと思うけれど、記憶の引き出しにはやはり、わずかな欠片も見当たらない。


わかんないよ……!


なんだかアタシまで泣きたい気持ちになってくる。


「オレのこと、わかんないんだ?」


逸れた瞳。

うつむいて。微かに、震えて。


ゾクリ。


突如、背中に悪寒が走った。


何……?


怖い。


ガッとあげられた頭。
切なく揺れていた瞳が、突如、色を変えた。


ひ……っ


喉の奥で悲鳴が鳴る。
怖い。
ただひたすらにそう感じる。


ガシリ。

腕を掴まれた。

打って変わって荒々しい力。二の腕が悲鳴をあげる。


「この、オレを?」


彼の瞳は、激しく沸き立っていた。
浮かんでいるのは、あまりにも強い怒り。
憎悪にも等しいほどの、強い怒り。


や……どうしよう……。


本能的な恐怖に体が凍りつく。


< 8 / 259 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop