弟、時々恋、のち狼
……どこかで会ったっけ?
そのあまりにも切なげな姿に、なんとか思い出してあげたいと思うけれど、記憶の引き出しにはやはり、わずかな欠片も見当たらない。
わかんないよ……!
なんだかアタシまで泣きたい気持ちになってくる。
「オレのこと、わかんないんだ?」
逸れた瞳。
うつむいて。微かに、震えて。
ゾクリ。
突如、背中に悪寒が走った。
何……?
怖い。
ガッとあげられた頭。
切なく揺れていた瞳が、突如、色を変えた。
ひ……っ
喉の奥で悲鳴が鳴る。
怖い。
ただひたすらにそう感じる。
ガシリ。
腕を掴まれた。
打って変わって荒々しい力。二の腕が悲鳴をあげる。
「この、オレを?」
彼の瞳は、激しく沸き立っていた。
浮かんでいるのは、あまりにも強い怒り。
憎悪にも等しいほどの、強い怒り。
や……どうしよう……。
本能的な恐怖に体が凍りつく。