弟、時々恋、のち狼
週間悪夢予報
「っひ!」
出会い頭の怪物に、思わず息をのんだ。
ロウのいる音楽準備室まであと少し。
廊下の角を曲がったとたん、それは突如、口をあけて肉迫していた。
昔、秋の星座の本で読んだ、ギリシア神話に出てくるおばけクジラのような、巨大な化け物。
反射的にギュッと目を閉じた。
大丈夫。
大丈夫。
呪文みたいに繰り返す。
だいたい、これで今日何度目なの?
大丈夫。
なのに、心構えがあまりにもできていなかったせいだろうか。
足の……体の震えがとまらない。
カチカチカチカチ
自分の歯がそんな無様な音をたてているのが聞こえる。
大丈夫!!
耐えがたさに自分自身を抱きしめた、瞬間。
ふわり。
温かいものが肩に触れた。
……ラッラ?
なんとなく、そう思う。
柔らかな、温かさ。