弟、時々恋、のち狼

「怖いと思われますか?」


強く前方を睨みつけていた視線をようやっと戻す。
あまり感情の色が窺えない、静かな瞳。
澄んでいて……まるですぐそこに底さえ、見えそうだ。


「……?」


今のアタシの気持ち。
怖がっているのか、と訊かれれば、答えは当然「イエス」。
でも。

怖い……ツカサのことを?


なぜ?


ツカサは一体、どんな意味でそう訊いているんだろう。
アタシが震えている理由は、アタシにしか見えないのに。


「あれは、ただの過去の風景にすぎません」


妙にきっぱり、言い切る。


「……『あれ』?」


廊下には、何もない。
ただ普通の、廊下。


「あの化け鯨は罪人の処分のために飼われていたもの。
しかし、第16代の臣王の時に寿命をむかえています」


何を………………?


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