弟、時々恋、のち狼
「毅然としていらっしゃい。
らしくない」
抑揚のない口調がピシャリと頬を打った。
にこりともせず、アタシの肩を放し、今来たばかりだろう道を戻っていく。
…………な、に?
残されたアタシは、身じろぎすらできずに、何もナイ廊下を見つめ続けた。
ーー化け鯨。
もしかして……見えた?
そんなバカな。
アタシにしか見えない、ノイローゼのような幻覚なのに。
気味が悪い。
胸のときめきよりも、わかってもらえる喜びよりも、今ばかりは薄気味の悪さが先に立った。
整った容姿が、なおのこと、冷え冷えとした恐ろしさを感じさせる。
顔にのぼった血が、そのまま、急速に凍っていった。
そうだ。
…………白羽先生のトコ、行かなきゃ……。
せき立てられるようにそう思う。