弟、時々恋、のち狼
ロウだって、信用していいのかどうかは、わからない。
でも、ラッラのこともあって、彼への抵抗感は着実に薄れてきていた。
今の、得体の知れないツカサよりは、まだ……。
鉛のようになった足をひきずり、残りわずかの距離を急ぐ。
妙な焦りがあった。
幼い頃、夕闇の道を歩いた時のような……。
背後にお化けが隠れていると思い込むのに似た根拠のない恐怖と、今すぐ逃げたい、走り出したいという焦燥感。
「来てくれたんだね」
だから、無事にたどり着いてロウの顔を見た時には、明るい我が家に帰り着いたような安堵を感じた。
「……先、生……」
つい数日前までこの相手に恐れを抱いたのに。今は、机に広げた楽譜の束を整理する姿が頼もしく思えた。