弟、時々恋、のち狼

「まぁ、座ったら?」


にこやかな、軽い口調。

勧められるままに、教師用の机のわきにおかれたイスに腰かける。
正直、立っているのがツラかった。


「やっと二人きりになれたね」


……なのに、ロウはあっという間に、あの時の不審者に成り下がる。


「まぁ、人目を忍ぶなんてのも、新鮮かな」


そう微笑みながら、座ったまま、大きく伸びをする。
楽譜の山は、机の端に追いやられた。
仕事をする気はもうないらしい。


ダメだと知りながらも心を奪われそうになる甘い笑み。
まるでスクリーンの中のことのように感じられる。

まださっきの、全身が痺れるような恐怖の名残が、あちこちに根を張っている。


「心ここにあらず、って感じだね」


ふっと目を細め、アタシの顔を覗き込む。


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