秘め恋*story5~車の中で…~




ーーーー




「どうしたの?その手!」



「ん、ちょっとね。」



「もしかして、またあの旦那ッ…」



「ちょっ…真奈美!」




怒りだそうとした真奈美を慌てて止めた。


今は教習が始まる前の待ち時間。


すぐ包帯を巻いた私の手に気付くと、 勘づく真奈美。




「完全にDVよ。警察行こう。」



「真奈美、落ち着いて。これはただケトルに当たっちゃっただけなの。ね?」



「ホントに…?」




笑顔で頷くと、真奈美は渋々黙ってくれた。




「何かあったら、必ず私に言って?
分かった?」



「うん。ありがとう、真奈美。」




先に教習へと向かった真奈美の後ろ姿を見つめながら、私は心の中でごめんなさいと呟いた。




「阿部さん、始めます。」



「あ、はい。」




珍しく遅れてやってきた柳教官が私を呼んだ。


いつもはピッタリで来るのに。


私は少し不思議に思いながら、そのまま柳教官と共に車へと向かった。




「では、今日は試験前の確認のためにコースを順番に…………ッ」




車に乗り込み、シートベルトを締めると同時くらいの時…



今日の説明をしていた柳教官の言葉が途切れる。



え?


隣を見ると、




「その手、どうしたんですか?」



「え…?」



「この手…。」




柳教官は訊ねながら、ハンドルを握っていた包帯を巻いた私の手にそっと触れた。


少しヒリッと痛んだ。




「すみません。」



「いえ、ちょっと火傷してしまって。」




謝って触れた手を離した柳教官。


私は思わず、顔を逸らしてしまった。


意外なほどに優しく触れられた手にドキッとしてしまったから…




その日は、“無理をせずに”という柳教官の気遣いで学科テストの復習をした。



ペンを持たなくても言いように、一問一答形式にしてくれた柳教官の何気ない優しさ。



私は少しずつ、恐いくらい真面目な柳教官の見方が変わりつつあった。



それは、もちろん良い意味で。
でも、少しイケナイ意味も含んで…








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