秘め恋*story5~車の中で…~
「ま、ちょっと真面目で厳しい人だから、
恐がられちゃうんだけどね。」
うんうんと頷く洋介くん。
あ…
「悪口か、いい度胸だな。」
「え?あ、柳さぁーん。」
呆れた声でそう言ったのは、洋介くんと同じく車校のジャンパーを羽織った柳教官だった。
手にはテイクアウトのカップを持っていた。
「違いますよー、路上教習が怖いって言う阿部ちゃんに柳教官なら大丈夫だよって元気付けてあげてたんですよ。」
「勝手に俺を使って元気付けるな。」
「すんませーん。」
おどける洋介くんを叱ると、柳教官は私の顔をジッと見つめた。
柳教官こそ、怖いよね…私の運転で路上教習出るんだもん。
申し訳なく思ってると、
「阿部さん、明日の日程表にサインが無かったですよ。」
「あ、ほんとですか!今からもう一度、行ってきます。」
私がそう言うと、柳教官はスタスタと店を出ていった。
ドジだなって思われてそうだなぁ。
私は真奈美と洋介くん達に断りして、店を出た。
すると、そこには先に帰ったはずの柳教官が…
「柳教官?」
「いや、俺もまだ帰らないといけないから。」
そう言って歩き出す柳教官の隣に並んで歩き出した私。
一緒に車校へ帰るために待っててくれたのかなぁ。
隣を歩く柳教官の整った横顔を見上げて、ちょっと嬉しくなってしまった。
こらこら、何キュンってしてるのよ、私。
「阿部さん。」
「は、はい。」
「明日からの路上教習、そんなに怖がらなくて大丈夫だから。」
「あ…はい。」
「俺が隣にいるから…安心して。」
「はい。。お願いします。」
返事をした私は、しばらく下を向いて歩いた。
見下ろす柳教官の顔が、ちょっと優しげに微笑んでたから…
“俺が隣にいるから。”
恥ずかしくて、ドキドキして…
まるで口説かれてるみたいに思っちゃった。