秘め恋*story5~車の中で…~
ーーーーードンッ。。
「ご、めんなさ…」
「もう、車校なんて行かなくていい。」
壁に打ち付けた後頭部が痛む。
そんな私を無表情で見下ろす夫。
「そんな…」
「お前が心配なんだよ、分からないかなぁ…」
掴まれた手首に力が込もって、思わず顔をしかめてしまう。
一度車校へ戻った後、家へ帰った。
すると夫が早めに帰宅してきたと思ったら、
いきなりこの状態。
夫が何故怒ってるのか、必死に考える。
私…何をしてしまったんだろう。
「分かる。心配してくれてるのは、分かる。
でも…」
「でもじゃない!!」
怒鳴る夫に、体が震えた。
どうしよう。
どうしたら、あなたを安心させられるの?
「わ、わかったわ。明日、真奈美に話す。」
「そっか。うん、そうしなよ。」
ホッとする私に夫は頭を撫でながら、優しく微笑みかけた。
あぁ、良かった。
少しはあなたの気持ちに応えられてるかな。
「いつも、心配かけてごめんね。」
少し赤くなっている手首に触れながら、私は夫に微笑んだ。
そしたら、夫は抱き締めながらこう言った。
「お前を守ってやるのは、俺だけだから。
お前の隣には俺がいるからな。」
愛してくれている夫からのそんな嬉しいはずの言葉が、今の私の心には入ってこない。
何とも感じないよ…
感じるのは…
“俺が隣にいるから。安心して。”
そう、安心感。
あの人の言葉と夫の言葉を比べてしまってる。
おかしい…私。
1人、リビングの壁にすがりしゃがみ込みながら…あの人の顔を思い浮かべていた。