秘め恋*story5~車の中で…~





「阿部さん、遅くなりました。
では、行きましょうか。」



「あ、柳教官。」




ココアを飲んで待っていた私は、すっかり聞き慣れた声に反応して、後ろを振り返った。


そして、思わず小さく声をあげてしまう。




「ぅわっ…」



「ぅわって何ですか。」



「あ、いえ、何でもないですっ。」




ちょっぴり不機嫌?な声で聞いてきた柳教官。


慌てて首を振ると、“はい、行きますよ”とさっさと車の方へ行ってしまった。



その後を小走りで追いかける私の顔は、何故かちょっぴり赤かった。




「め、眼鏡…」




今日の柳教官は、何故か眼鏡をかけていた。
細い黒ぶちの眼鏡。



初めての柳教官の眼鏡姿に思わずキュンとしてしまった。



か、カッコいいな。




「今日から路上教習です。とりあえず、今日は適当な順路で走ってみましょうか。」



「あ、はい。」



「じゃあ、発進してください。」




隣に座る柳教官に促され、初めての路上教習へと出発した。



初めの内は周りの車が怖くてノロノロ運転だったけど、隣の柳教官が細かくアドバイスを出してくれてたお陰で、途中から少し余裕が出てきた。




折り返し車校へと引き返す前に休憩しようということで、自販機が並ぶ広いところへ車を停めた。




車から降りて、伸びをしながら遠くの方を見ていると…




「はい。」



「あ、ありがとうございます。」




柳教官が温かいココアの缶を2つ持って、その内の1つを私に差し出した。



ふふ、やっぱりココアなんですね。
ホントに意外な人。




「どうですか、初めての路上は。」



「最初は怖かったです。でも、途中から少し楽しくなってきました。私、運転してるっ!って実感しちゃいました。」



「そうですか。」



「はい。」




私がそう返事をしてニッコリすると、柳教官は何故かしばらく私の顔を見つめていた。



なんだろう?そう思いながらも、眼鏡姿の柳教官に恥ずかしくなり、視線を反らした。




そして、ココアを飲み終わると私は柳教官にあの事を話そうと決心した。




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