秘め恋*story5~車の中で…~
車に乗り込んだものの、暫くの間2人とも黙ったままだった。
最初に口を開いたのは…
「じょ…冗談ですよね…?」
私は運転席へ座る柳教官をチラリと見て聞いた。そして、前を見つめていた柳教官が私の方を向いた。
いつもの無表情じゃない。
ふわりと優しい表情。
柳教官の初めて見るそんな表情に胸が高鳴る。
「俺がそんな冗談、言うように見えるか?」
「い、いえ…でも…」
慌てて否定する私を見て、柳教官はクスッと笑った。
あ、笑った。
柳教官、笑った顔…素敵。。
無意識にそう感じてしまう。
「廊下。」
「廊下?」
突然、発せられた言葉を繰り返した。
気づくと、柳教官はハンドルにもたれながら私を見つめていた。
「廊下でぶつかったあの初めて会った日、柄にもなく…一目惚れした。似合わないだろ?」
はにかむ柳教官。
私も、驚きながら恥ずかしくて赤くなってしまった。それでもふるふると顔を振る。
「教室で担当教官として会えた時は、本当に嬉しかったよ。でも、なんと言うか…自分からいくとか苦手で…必要以上に態度が厳しくなってしまった。…ごめん。」
「そ、そんな事ないです。。」
“柳教官が厳しくしてくれたから、頑張れました”そう私が言うと…
「俺、本当はもっと優しいんだぞ?」
からかうような口調の柳教官に、私も思わずクスッと笑った。
それから柳教官は色々話してくれた。
教習がいつも待ち遠しかったこと、
私が既婚者だって知った時のショック、
ハンドルを握る私の薬指に光る指輪が
辛いこと…
あんなに教習で一緒だったのに、全然知らなかった。
「諦めなければいけないって思いながら、
なかなかそれが出来なかった。」
柳教官の一つ一つの言葉が、受け入れてはいけないって思っていても、どんどん心に溜まっていく。
夫の顔がちらつく…それでも、言い様のない温かい気持ちで満たされていく。
こんな私、きっと変だ。
「でも、そんな時…君の友達の、水野さんに話を聞いた。…君の旦那のこと。」
柳教官のその言葉を聞いた瞬間、身体が一気に動かなくなった。
真奈美…柳教官に話したの…?