秘め恋*story5~車の中で…~
私、阿部 多香子(アベ タカコ)。30歳。
結婚2年目の専業主婦。
今の夫とは、以前勤めていた会社の上司から薦められて断れず受けたお見合いで知り合って結婚した。
第一印象は、とても笑顔が素敵で、知的な感じで穏やかな人。
実際、お見合いをしてその後2人で会うようになってからも、その通りの人だった。
だから、結婚した。
でも、それがこの人の1つの顔に過ぎないということに気づいたのは結婚後だった。
そんな夫との生活に変化のきっかけを運んできたのは、高校時代からの親友だった。
ある日、同じく専業主婦で1児の母である親友の真奈美がお茶をしにうちへ来ていた。
「え?免許?」
「そっ。あったら、便利じゃない♪」
「そうだけど…」
久しぶりに作った紅茶のシフォンケーキをつっつきながら、真奈美は持ってきたパンフを私の前に広げた。
それは駅から30ぷんくらい離れたところにある自動車学校のパンフだった。
どうやら、真奈美は大きくなる子供の為に免許を取りに行きたいらしい。
「でね、ほらここ。」
真奈美がウキウキ気分でトントンと指先で示したところに目を向ける。
「お友達プラン…?」
「うん。お友達と一緒に通うと、
授業料が30%OFFなの。魅力的でしょ?」
パチパチと上目遣いで私を見つめた真奈美。
そんな親友を見ながら、思う。
昔からそう。
真奈美は思い立ったら即行動!のしっかり者だった。
そんな性格に私は、いつも羨ましく思ってた。
あ、もちろん、いい意味でね。
「ね~。行こう!一緒に免許取ろう?」
「えー、いいよ、私は。」
「なんで。取っとくと絶対良いわよ!」
「うーん、そうだけど。」
私だって、免許持ってたら便利がいいって事くらい分かる。
でも…
「許してもらえるかなぁ…」
「あぁ、あのDV夫ね。」
「真奈美っ。」
「何よ。だから、いつも言ってるじゃない。
早く別れなって。」
真奈美は知っていた。
私がたまに夫から手をあげられていることを。