秘め恋*story5~車の中で…~
「君をこのまま何処か遠くへ連れ去ってしまいたい。…駄目か?」
「…連れ去って、ほしいです。。」
「こら、冗談でも駄目だっていってくれ。
そうじゃないと、本気にしてしまう。」
もうそんな甘い言葉を囁くようになった柳さんは、本当に今までのあの鬼教官が嘘のように感じた。
いつもあの真顔で淡々と話す柳さんと、すごいギャップ。
そのギャップが堪らなく、愛しく感じてしまうんだけど。
「そろそろ帰らないといけないな…」
「そう…ですね。」
腕時計を見て、ため息のように呟く柳さんを見て私もため息をつく。
時間が止まればいいのに。
初めてそう思った。
「最後に確認していいか?」
「はい。」
私の手をそっと握る柳さん。
もうこの手の温もりを忘れることなんて出来ないと思った。
「本当の愛っていうものを知りたくないか?」
本当の愛…
握られた手の手首にそっと視線を落とした。
痛々しい痣…
私は柳さんの真剣な眼差しに向き合った。
「知りたいです。」
そうはっきりと告げた。
この手首の痣は、愛されてる証拠…そんなわけない。ただの悲しい傷あと。
私は夫に愛されてるんだ…
それは大きな錯覚だった。
悲しくて、寂しい勘違い。
それに気づかせてくれたのは…
「俺が一生懸けて、教えてやる。」
眼鏡を外して、2度目のキスをしたこの人。
ドキドキが止まらなくなるくらい甘くて熱いキスをするこの人。
「もっと、知りたいです…あなたの事。」
「フッ…もちろん。
でも、それは今日の教習が終わったらです。
まだまだ、これからたっぷり時間はありますからね。」
「教官に戻ってる…」
動き出した車。
教官の運転する姿を横で見つめていた。
赤信号で止まると、降ってくる甘いキス…
「柳教官、まだ教習中です。。」
「助手席からそんな可愛い視線を送ってくるからです。」
あの時、真奈美から渡されたパンフレットを見てよかった。
この車校を選んでよかった。
こんなに甘くて、たっぷり愛を教えてくれる
鬼教官に出逢うことができたから。
これからたくさん大変なことが待ち受けていると思う。
それでも、この人となら乗り越えられると思う…ううん、乗り越える。
あなたと本当に一緒にいられるようになった時には、もっと、もっと、もっと…
たくさん、教えてください。
本当の愛を…。
end*