秘め恋*story5~車の中で…~
「はい。」
「あっ、ありがとうございますっ。」
温かいカフェオレを奢ってもらった。
厳しい人だけど、案外優しいなぁ。
そのカフェオレのカップを持って、近くのイスに座った。
向かいに座った柳教官は、ブラックコーヒーを飲んで…ってあれ?
「柳教官、何飲んでるんですか?」
「ココア。」
「プッ。」
真顔で言う柳教官に思わず笑ってしまった。
すると、柳教官はカップを口に付けながら、チラッと私を見てムッとした顔をした。
そのふてた顔がちょっと可愛く感じた。
「何で笑う。」
「だって、鬼教官が甘いココアってっ(笑)。」
思わず“鬼教官”なんて言ってしまったけど…
「甘いものが好きなんだよ。
別にいいだろう?」
「ふふっ。そうですね。」
甘いものが大好きらしい柳教官は、甘いホットココアを飲んで、ちょっと柔らかくなってるみたい。
なんか、意外。
それに、いつも教習中と違って、話しやすい。
それから、教官と教習とは関係のない話をした。
「へぇ。柳教官…独身なんですね。」
「教習中じゃないから、教官はやめろ。」
「ふふ、はい。柳さん。」
「よろしい。」
少し柳教官、あ、柳さんと打ち解けたように感じる。
明日からの教習もこんな感じでできたらいいののに。
「まぁ、俺が独身っていってもおかしくないけど…君が既婚者だからね。」
「え、何でですが?」
不思議に思っていると、柳さんは私から目を逸らして
「いや、ただ人妻には見えないから。」
「どういう意味ですかー?」
そう聞いたところで、教習が終わった真奈美が私を見つけてやって来た。
柳さんは空になったカップを持って、“ではまた明日”と声をかけて向こうへ行ってしまった。
その後ろ姿を見つめながら、何となく寂しさみたいなものを感じてしまった。