インセカンズ
一日位経ったところで目に見えた味の変化は感じられないということを知ったのは、一人暮らしを始めて間もない頃だった。

仕事の忙しさにかまけてコンビニ弁当や外食で済ませていた為、冷蔵庫にはミネラルウォーターや発泡酒、ワインといった酒類の他、食べきりサイズのプリンやヨーグルトが常備してある程度だった。

そんな折疲労から熱を出してしまい、今日のように賞味期限が一日過ぎたプリンを初めて手に取ったのだが、味の変化はおろかお腹を下しもしなかった事に、目から鱗が落ちる思いだった。

プリンを持った手の小指と薬指の間で器用にワイングラスの柄を挟み、反対側の手でワインボトルを持ってリビングに戻るとラグに腰を下ろし、慣れた手付きでコルクを抜いてグラスに白ワインを注ぐ。

テーブルの上の読みかけだったファッション雑誌を捲りながら、一口、また一口と飲み進めながら、時折プリンを口にする。

このワイングラスはペアグラスで、恋人の亮祐(リョウスケ)と一緒に選んだものだ。

恋の賞味期限まで、あと2ヶ月、か……。緋衣は、頬杖を突いてもう片方の手で持ったグラスを目の前に翳す。

恋愛の賞味期限は三年なんて誰が決めたの?心の中で呟きながら、唇に当てたグラスがいつもより少しひんやりした気がして、ワインを一口だけ飲むとテーブルに突っ伏した。
< 10 / 164 >

この作品をシェア

pagetop