インセカンズ
二人が付き合い始めたとき、緋衣は25歳、亮祐は27歳だった。

それから2年と10ヶ月。

5ヶ月前に亮祐が転勤になってからは遠距離恋愛を続けている。

彼から異動の話を切り出された時、プロポーズされるかもしれないと密かに胸を高鳴らせた緋衣の脳裏には、同時に仕事が事が過ぎっていた。任される内容も増えてきて、やりがいだけでなく面白さも感じていた。

もしもプロポーズされたなら、妻として一緒についていきたい。
けれども、ここまで積み重ねてきたキャリアを手放す口惜しさを考えてしまう。
この逡巡が亮祐に伝わったのかは分からなかったが、緋衣がプロポーズされることはなかった。

お互いがもう少し若ければ、結婚を意識したりせずにいられたのかもしれない。緋衣は何度もそう思った。

いわゆる適齢期と呼ばれる世代となった今、プロポーズをされなかったという現実が重く圧し掛かってくる。

最近は、女性の方からのプロポーズを待っている男性も多いと聞く。こんなふうに悩むのであれば、その後の関係が多少ギクシャクしようとも、結婚するか否かを投げかけてみれば良かったと思う。

時期早々だとか、結婚願望はないとか、そもそも亮祐が二人のこれからのビジョンをどのように描いているのかも分からないまま遠距離を始めてしまった事を今更ながら後悔している。
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