インセカンズ
緋衣はソファに腰掛けると、リビングテーブルに置いてあるリモコンを手にしてテレビの電源を入れる。ニュース番組にチャンネルを合わせて、傍にあったビジネス雑誌を手に取った。

安信の部屋は、いつ来てもきれいにしている。無造作に置かれた雑誌も様になっているのは、彼のセンス、特性なのかもしれない。他人の家を詮索するのは好きではなかったが、見渡す限り掃除が行き届いている。確かに会社のデスクは見る度整頓されているが、決して小まめといった印象もない。そうなると、合い鍵を持ってる誰かが定期的に訪れていると考えた方が理に適う。

「アズも何か飲むか?」

まだ濡れた髪とラフな部屋着姿になってリビングに入ってきた安信は、冷蔵庫を開けながら緋衣に聞く。

「私は大丈夫です。ヤスさんだけどうぞ」

緋衣はそう答えると、膝の雑誌を元あった場所に戻す。

「ヤスさん、本当は何かあったんですか?」

「何で? 逆に、アズが何かあったのか?」

安信は、水が入ったグラスを持って緋衣の隣りに腰を下ろす。彼女が戸惑いがちに尋ねれば、当の安信はあっけらかんとしている。

「私は何も。ただ、ヤスさんがいつもと少し違う気がしたので……。何もなければ、別にそれでいいんです」

無理に安信のプライベートに踏み込もうとは思わない。もし知ってしまっても、緋衣にはもう関係ないことだ。
< 110 / 164 >

この作品をシェア

pagetop