インセカンズ
遠距離になってからの2ヶ月位は、週末を利用して2週間に一度位のペースでお互いの間を行き来していた。
それが、暫く忙しくなるから連絡が取り辛くなるかもしれないと告げられて以来、緋衣はなるべく自分からは電話やメールを控えるようにしていた。

亮祐の邪魔にならない程度の挨拶メールを送るとタイムリーに戻ってくる時もあれば、何日か置いて、緋衣の体調を気遣うような内容だったり、仕事の進捗状況などの簡単なメールが来ることもあって、遠距離とはこういうものなのかもしれないと緋衣が理解し慣れ始めた頃にそれは起きた。

先週の土曜日の夜の事だった。久し振りに亮祐の携帯に電話すると、そこに出たのは、舌足らずで甘くけれども高飛車でドスを利かせた女性の声。

状況を飲み込めず、妙な胸騒ぎから心臓が音を立てて警鐘を鳴らしているその最中、相手の一方的な話し声が耳に入ってきた。

「いつまでも彼女面しないでもらえます? 亮祐さんはもうすぐ私のものになるんだから邪魔しないでよね」

あまりの剣幕に何も言い返すことができなかった。

いつ電話が切られたのかも、気付かなかった。

ドラマ見てるみたい……。携帯を持つ手が震え、すとんと腕が落ちると同時に膝から崩れ落ちた。ぽつりと呟いた緋衣の目はみるみるうちに涙で溢れていった。

その週末は泣くだけ泣いたが、月曜日に出勤した際は仲の良い同期も気付かない程、緋衣は平静だった。

仕事にプライベートは持ち込むものではない。

社内で恋愛トラブルの噂が持ち上がる度、新人の女性社員が日々恋人の一挙一動に囚われてふわふわと過ごしている姿を見る度、緋衣は常々そう思う。
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