インセカンズ
「ヤスは、相変わらずコンスタントに成績出すよね」

二人は自席に戻る為、話を続けながら踵を返す。

「当たり前だけど、ルックスだけで成果出してる訳じゃないんだよね。出張に同行して分かったけど、コンサルティングも緻密だったし、見えないところで努力してるんだなって」

「確かに、残業してるのあんまり見掛けないしね」

アシスタントに一から十まで押しつけているきらいもない為、時間を有効利用しているのだろう。仕事ができる人間は時間の使い方が上手いというのはビジネス書籍でもよく目にする。

「なにアズ。もしかして今さらヤスに惚れちゃった?」

ミチルは、緋衣にこそりと耳打ちをする。

今にもカッと顔に熱が籠りそうになるのをどうにか静めたが、もしかすると耳は赤くなってしまっているかもしれない。もしミチルに気付かれてしまったとしても、それはそれで仕方ないと緋衣は思う。全てが片付いたら彼女に打ち明けるつもりでいたし、今さら中途半端に聞き出す様なことはしてこないだろう。

ふと気付けば、いつだって安信の姿を探している。いつからそうしていたのだろうか。まるで、まだ恋に不慣れな中学生のようだ。こんな状況では、きっと緋衣の慕情に気付いている同僚がいてもおかしくない。彼に迷惑を掛けるのは本望ではないのに、どうしようもできない。

自分でも儘ならない想い。それを恋と呼ばずに何と呼べばいいのか。一度認めてしまえば、すとんと胸に落ちてきたその二文字は、とても大切なものになっていた。

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