インセカンズ
5分ほどで安信のマンションに着き、エントランスで部屋番号を呼び出すと自動ドアが開く。エレベーターは一階で止まっていた為、すぐに乗り込む事ができた。

到着した五階のエレベーターフロアでは、安信が待っていた。

緋衣は、防犯窓から彼の顔を見つけた瞬間、思わず笑顔がこみ上げてくるのを感じる。けれども、それを悟られないようにときつく唇を引き結ぶ。

「よぉ。まだ家に帰ってなかったんだな」

安信は、緋衣がまだスーツ姿でいるのを確認してそう言う。

「はい。会社帰りに用事があったので」

「こうして会うの、久しぶりだな。来いよ」

くるりと背を向けた安信の後ろに、緋衣も黙って着いていく。

リビングに通されると、そこは相変わらずきれいに整頓されていた。

「いつ来ても片付いてますね、ヤスさんち」

「ああ。週3で出掛けにお掃除ロボット予約していくからな。こいつただの機械なのに、見慣れると可愛いんだよ。今日はリビング掃除してたから、ほら、そこにいる」

安信が指差した先には、シルバー色の丸いそれが、部屋の隅にちょこんと収まっていた。

「で、今日はどうした? アズの方から連絡寄こしたのって初めてだよな。やりたいなら今すぐでもいいし、少し酒でも飲んでからでも、どっちでもいいよ。夕飯は食ったんだよな?」

「はい。お腹は空いてないですし、飲み物もいりません。ヤスさんとは、もうエッチもしません」

緋衣がそう言うと、アルコールの準備をしようとしていた安信の手が止まった。

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