インセカンズ
まだ誰にも、亮祐の事は話していない。

だがもし、事の顛末を友人からの恋愛相談として聞いたのならば、

「そんな男、別れた方がいいよ。絶対浮気してる」と間違いなくアドバイスしているだろう。

「信じてあげなきゃ、彼氏が可哀想だよ」とは言わないと、緋衣は思う。

大切な友人には、これ以上悩んだり傷付いたりしないでほしいからこそ新しい道を提案するし、これまでだってそうしてきた。

遠距離恋愛は成立しないということも、過去に何件かの事例として知っている。そして、その場合、大抵男性側の浮気が原因で破局を迎える。

「男というのは、近くにいない恋人よりも、身近にいる手頃な女の子に呆気なく傾く生き物」だと名言を残した友人の顔をふと思い出す。

なのに、いざ自分の身に降りかかるとどうしてなのだろう。
それまでの持論をあっさりと捨てて、まるでそれしか道がないかのように恋人を信じようとしてしまう。

けれども、信じようと思う段階で、本当は信じていない事にも緋衣は気付いている。

裏腹な心は、恋する気持ちよりも自尊心を守りたいだけなのかもしれない。緋衣は、手持ち無沙汰にグラスの柄を揺らしながら、グラスの中で浮き沈みする少し黄みがかった液体を眺める。

緋衣は、もう何度も同じことをぐるぐると考えながらも答えを出せずにいる自分に嫌気が差しながら、かといって当の亮祐には真相を聞けずにいる。
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