インセカンズ
「いいよ、アミちゃん。俺は気にしてないから」

アミに対して困り顔で言うのは、ノリコの彼氏である特許課の高橋だ。ノリコは高橋の告白を何度も無碍に断り続けてきたが最終的には根負けして、なんやかんや言いながらも付き合って1年になる。

「高橋はいつも優しすぎるんだよ。いいの、それで? 惚れた弱みにつけこまれているようにしか見えないし」アミは、再び溜息を吐いた。

「本当だよな。俺の彼女なら、ぜってー好き勝手させねーし。浮気だ、浮気」

そう言い切るのは、黒いセルフレームの眼鏡がトレードマークであるシステム課の山崎だ。女性関係の噂が絶えないモテ男で、同じく噂に事欠かない安信をライバル視して煙たがっている節がある。

「ヒデに連絡したら、15分位で着くって」

携帯を操作しながら言うのは、ミチルにヒデを引き合わせた営業所付けの大野だ。大野はヒデの幼馴染で、ミチルとは同じ大学のゼミ仲間でもあった。

過去に二人の間で何かあったのではないかと匂わせるような会話をしていたのを、緋衣は偶然立ち聞きしてしまったことがあるが、二人には話していない。
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