インセカンズ
同期からの非難の声を物ともせず安信の側にやってきたノリコは、大きな目をくりんとさせて強請ってみせる。その円らな瞳にノックアウトされる男性社員は数知れず、高橋という公認の彼氏がいながら未だその人気は衰えを見せることなく、水面下で彼女を狙っていると噂される男性社員はいくらでもいる。

「いい加減にしないと、高橋にお仕置き食らうぞ」

「どうぞ、ヤスさん。ヤスさんさえよかったら、ぽんぽんどころかわしゃわしゃしてやってください」

「高橋……。ほら、ぽんぽんもわしゃわしゃも彼氏にしてもらえ」

高橋が真剣な面差しで頼めば、安信はおまえは……と呆れ顔をする。

ぐいぐいといつまでも安信のスーツを引っ張って離さないノリコの態度が目に余り、お灸を添えようとアミが立ち上がったその時、ノリコは顔を真っ赤にして俯いたかと思うとそそくさと自分の席へと戻っていった。

「……あれ?」

駄々を捏ねていたノリコの代わり身の早さに何があったのかと首を傾げながら腰を下ろせば、隣りの大野が耳打ちする。

「ヤスさんが言ったんだよ。くだらないことばっかして試してると、そのうち捨てられるぞって」

「え……? でも、ぞっこんなのは高橋の方じゃないの」

「いざ付き合ってみたら、ノリの方がハマったんだろ、たぶん。始まりが始まりだったから、今更素直になれないっていう」

「なるほど……。大野って、何気に色々見てるよね」

「気付かないおまえが女子力下がってんだよ」

「そんなこと言うなら、男紹介してよ。こっちだって、好き好んでフリーやってんじゃないんだから」

「そこ、何こそこそやってんだー? あやしーなぁ」

大野とアミが、親密に見えるほど頬を寄せ合いながらそんなやり取りをしていると、向いの山崎がにやにやと頬杖をつきながら口を挟んでくる。
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