インセカンズ
「うっさいわね。山崎には関係ないでしょ」

「ふん。ホントかわいくねー女」

「好きな男の前なら、かわいくするわよ。私は、みだりに愛想振り撒いたりしない女なの」

アミがこれ見よがしにぎろりと睨めば、山崎も憎まれ口で返す。この二人は、気が済むまで応戦しないと収まらない。

今ではすっかり見慣れた光景に、誰も止めに入る気配はない。同期の誰もが口にはしないが、案外この二人が付き合えば、上手くいくんじゃないかと思っている。

「ほら、ミチル。ヒデくん来る前におトイレ行かなくていいの?」

緋衣は、そんな二人を尻目にミチルの背中を揺さぶるが起きる気配はなく、暗に大野を見る。

「ん。起きない時は俺が車まで運ぶから」

こちらもお決まりのパターンで、大野は表情ひとつ変えることなく頷く。緋衣には、それが余計に、やはり二人の間には何かあるのではないかと想像を巡らせてしまうが、他人の色恋沙汰に首を突っ込んでも碌な事がないのは承知しているので知らないふりをする。

「そろそろお開きだな」

安信の一声で、幹事の高橋が店員を呼んだ。

ミチルを迎えにきたヒデの車を同期全員で見送った後、二次会に行く者と帰宅する者とでそれぞれ別れる。

帰宅組の緋衣と安信は方向が同じ為、タクシーに同乗することにした。
入社時から同じ部署ということもあり、同期の中で接する機会が多い二人ではあるが、飲み会を含め社外で二人きりになるのは意外にも始めての事だった。世間話から始まって、安信の出張先の話を聞いたりしているうちに、タクシーは最初の目的地である彼のマンションに到着する。
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